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AIはどこまで賢くなったのか——東大首席・IMO金メダル・博士超え、データで見る変化

AIはどこまで賢くなったのか——東大首席・IMO金メダル・博士超え、データで見る変化

パンハウスインサイト編集部
2026.08.21

2016年、日本でひとつのプロジェクトが幕を閉じました。

国立情報学研究所が進めていた「東ロボくん」——AIを東京大学に合格させようとした5年間の挑戦です。結果は偏差値57.1、東大には程遠い数字でした。プロジェクトリーダーの新井紀子教授はAIを「知識に比べ幼稚な知性」と評しました。

それから9年後の2026年、同じ東大入試にAIが挑みました。結果は首席合格者の点数を上回りました。

AIの「賢さ」は、いったいどのように、どれほどの速さで変化したのでしょうか。本稿では複数のデータを通じてその実態を追います。

AIの賢さは「ベンチマーク」で測る

AIの能力を語るには、まず測定方法を理解する必要があります。

AI研究者はAIの性能を測るために「ベンチマーク」と呼ばれる標準的な試験を使います。医師国家試験や司法試験のように、ベンチマークは特定の能力を定量化するための共通のものさしです。重要なのは、多くのベンチマークが「人間のスコア」を基準点として設定している点です——AIがどこまで人間に近づいたか、あるいは超えたかが一目でわかります。

ベンチマークはあくまで特定タスクの指標であり、「汎用的な知能」を測るものではありません。その限界を念頭に置きつつ、以下のデータをご覧ください。

東大・共通テスト——「AIには無理」から9年で何が起きたか

東ロボくんプロジェクトが終了した2016年から、日本の大学入試という具体的な指標でAIの変化を追うと、その変化の速さが際立ちます。

共通テスト(旧センター試験)の正答率推移

年度モデル正答率
2016東ロボくん55.3%
2025ChatGPT o191.3%
2026GPT-5.2 Thinking96.9%、9科目満点

2024年から2025年の1年間で66.9%から91.3%へ——24ポイントの伸び幅は異例です。東大合格者のトップ層でも9割を超えることは「至難の業」とされています。

東大二次試験(河合塾採点協力)

共通テストだけではありません。記述式・論述式の二次試験でも、河合塾の講師が採点に協力して実施された検証で、以下の結果が出ています。

  • 2025年度:ChatGPT o1が共通テスト+二次試験の合計で、東大理科三類の合格最低点を超え合格水準に到達
  • 2026年度:ChatGPT 5.2 ThinkingがGemini、Claudeとともに理三の合格者最高点(453点)を超える503点を記録

さらに印象的なのは数学の変化です。2025年度のo1は東大理系数学で38点でした。翌年、同じカテゴリのモデルは120点満点を達成しました。

「知識に比べ幼稚な知性」——その評価から9年。同じ東大入試で、AIは首席の点数を超えました。

IQで見るAIの変化

ベンチマークとは別の切り口として、IQテストによる測定も試みられています。Mensa Norwayの公開テストを用いたTrackingAI(Maxim Lott)の測定によると、推移はこうなっています。

時期モデルMensa換算IQ備考
初期テキストモデル全般89〜100人間平均(100)以下
2024/09OpenAI o1約120人類の91%を上回る水準
2025OpenAI o3約136人口の98%超に相当
2026o3・Claude Opus 4系133〜141
2026Grok-4.20 Expert Mode / GPT-5.4 Pro(Vision)145視覚テスト込みで最高値

ただし、このデータには重要な留意点があります。IQは人間の認知構造を前提に設計された指標であり、LLMへの適用は妥当性が議論されています。また、視覚・空間推論では著しく低い値も出ます(例:GPT-4oはテキスト系で高スコアでも、視覚テストではIQ63と大幅に下がります)。

「AIのIQが145」を額面通りに受け取るのではなく、「特定の言語的タスクで人間の上位数%に相当するパフォーマンスを出せるようになった」という解釈が正確です。

資格試験——2023年時点のGPT-4がここまでやった

ここで2023年という基準点を置いておきたいと思います。

GPT-4が発表された2023年、米国の各種資格試験での成績が世界を驚かせました。

試験成績
米国統一司法試験(UBE)上位10〜30%相当で合格レベル ※
米国医師国家試験(USMLE)受験者の80〜100パーセンタイル
公認会計士試験(CPA)合格レベル
LSAT(法科大学院入試)88パーセンタイル
日本の医師国家試験過去6年分すべて合格(2023年研究)

※ OpenAIは「90パーセンタイル」と発表しましたが、MITの研究者による再評価では7月受験者全体との比較で約68パーセンタイル(2月受験者はスコアが低い集団のため)。数字の出所には注意が必要です。

重要なのは、これが3年前の話だという点です。あれから何が起きているかは、以降のデータが示す通りです。

数学の頂点——IMO金メダルとFrontierMath

知識テストや資格試験に続いて、数学という分野でのAIの進化が際立ちます。

国際数学オリンピック(IMO)

IMOは世界中の数学の天才が集まる大会です。2025年の金メダルカットオフは35点(630名中72名のみ、約11%)。

  • 2024年:DeepMind AlphaProof → 銀メダル相当(6問中4問、28/42点)
  • 2025年:DeepMind Gemini Deep Think → 金メダル相当(35点)——IMO主催者が公式認定
  • 2025年:OpenAIの実験的推論モデルも金メダル相当(35点)——元IMOメダリスト3名が採点

2024年に銀、2025年に金。わずか1年の変化です。

FrontierMath——「当分無理」が2年で崩れた

FrontierMathは世界トップクラスの数学者70名以上が作成した問題群です。約25%が国際数学オリンピックレベル、50%が大学院レベル、残り25%は専門の研究者でも数時間〜数日かかる難易度です。

  • 2024年公開当初:最先端AI全般の正解率 2%未満。数学者たちは「当分突破できない壁」と評しました
  • 2024年12月:OpenAI o3が 25.2% を記録(他モデルを圧倒)
  • 2026年(Tier 1-3):GPT-5.5 Proが 87.7% に到達

「当分無理」と言われた壁が2年で87%まで崩れました。なお最難関のTier 4(研究者レベル)については、設計者が「数十年は突破されない可能性がある」と明言しています。

博士専門家を超えた——MMLU・GPQA Diamond

資格試験や数学競技と並んで、純粋な知識・推論系ベンチマークでの変化も見ておきたいと思います。

MMLU——57科目の知識テスト

数学・歴史・法律・医学・理科など57科目にまたがるMMLUは、AI研究者が知識の広さを測るために広く使ってきたベンチマークです。

  • 2020年 GPT-3:43.9%
  • 2023年 GPT-4:86.4%
  • 2023年12月 Gemini Ultra:90.04%——人間専門家平均(89.8%)を初めて超えた
  • 2025年 GPT-4.1:90.2%

5年間で43.9%から90%超へ。このベンチマークは現在「飽和」しており、モデル間の差別化に使いにくくなっています。つまり、上位モデルが軒並み人間専門家を超えたということです。

GPQA Diamond——博士レベルの科学問題

MMLUの飽和を受けて研究者が作ったのがGPQA Diamondです。生物・物理・化学の博士課程レベルの問題198問で、Web検索可能な非専門家でも30分かけて34%しか正解できません。同分野のPhD専門家でも65〜70%が限界とされています。

  • 2023年 GPT-4:39%(専門家以下)
  • 2024年9月 OpenAI o1:77.3%——初めて博士専門家(約70%)を超えた
  • 2026年2月 Gemini 3.1 Pro:94.1%
  • 2026年 Claude Sonnet 5:96.2%

専門家の限界である70%を超えるのに「不可能に近い」と言われていましたが、o1が2024年9月に初突破し、以降は急伸しています。

Humanity’s Last Exam——「解けない問題」を作ろうとした結果

ここまでのベンチマークが次々と飽和するなか、2024年末に「AIが簡単には解けない問題」を意図的に設計しようとした試みが登場しました。Scale AIとCenter for AI Safetyが共同で作成した「Humanity’s Last Exam(HLE)」です。

2,500問以上、100以上の科目。インターネットに解答がなく、専門家でも数時間を要する問題のみで構成されています。「超人的AIが登場する前の最後の評価軸」として設計されました。

時期モデルスコア
2024年12月GPT-4o2.72%
2024年12月OpenAI o17.96%
2026年初Gemini 3 Pro37.5%
2026年初Claude Opus 4.634.4%
2026年Claude Fable 5約53〜64%
専門家(自分野)約90%

公開からわずか1年でo1の7.96%がGemini 3 Proの37.5%へ——約4倍に跳ね上がりました。「最後の試験」も飽和に向かいつつあります。

それでも人間が勝っている領域

ここまで読むと「AIはすべてを超えた」という印象を持つかもしれません。しかし、そうではありません。

人間が圧倒的に勝ち続けている領域もあります。

ARC-AGI-3(2026年3月公開)は、視覚的なパターンから隠れたルールを発見するインタラクティブな推論タスクです。人間は複数人で試せばほぼ全ての問題が解けますが、現時点の最上位AIは0.37%(Gemini 3.1 Pro)にとどまります。

競技プログラミングの「AtCoder World Tour Finals」では2025年、AIが2位を記録しました——しかし優勝した人間との差は9.5%ありました。1位は依然として人間です。

「凄まじく賢くなった」のは事実ですが、「人間を完全に超えた」は正確ではありません。

まとめ——「賢くなった」より「賢くなり続ける速度」が本題

数字を並べると、こうなります。

指標起点到達点期間
共通テスト正答率東ロボくん 偏差値57(2016)96.9%・9科目満点(2026)10年
Mensa換算IQ89〜100(初期)133〜145(2026)数年
MMLU(57科目知識)43.9%(2020)90.2%(2025)、専門家超え5年
GPQA(博士レベル科学)39%(2023)96.2%(2026)3年
FrontierMath<2%(2024)87.7% Tier 1-3(2026)約2年
Humanity’s Last Exam7.96%(2024/12)約53〜64%(2026)約1年
国際数学オリンピック銀メダル(2024)金メダル公式認定(2025)1年
東大理三入試合格水準(2025)首席スコア超え(2026)1年

重要なのは、AIが「賢くなった」という事実よりも、「賢くなり続けている速度」です。「当分無理」と言われた壁が1〜2年で崩れる事例が繰り返されています。来年、再来年に何が起きているかを誰も正確には予測できません。

問題は「AIを使うかどうか」ではなく、「この変化の速さのなかで、どう使いこなすか」です。

参考・出典

東大・共通テスト

国際数学オリンピック(IMO)

FrontierMath

ARC-AGI

Humanity’s Last Exam(HLE)

MMLU・GPQA Diamond

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