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見積書づくりを丸ごと自動化——GASと生成AIで作った社内業務アプリの事例

見積書づくりを丸ごと自動化——GASと生成AIで作った社内業務アプリの事例

下岡稔
2026.09.24

Google Apps Script(GAS)とはでは、GASを使えばスプレッドシートやGmailをまたいだ業務を丸ごと自動化できることを、コードが書けなくても業務は自動化できるでは、そのコードは生成AIに書かせればいいという話を紹介しました。

今回は、その2つを組み合わせて実際に作り、社内で使っているアプリを1つお見せします。特別なことはしていません。できあがったのは、入力欄が5つあるだけのフォームです。

見積書1通のために、毎回これだけ調べていた

弊社の生成AI研修は、要件を満たせば助成金の対象になりえます。そのため見積書には「1人あたりいくら助成され、実質いくらになるか」という試算を添えています。

この試算のために、見積書1通ごとに次のことをしていました。

  1. 相手企業の公式サイトを開いて、正式な社名・本社住所・事業内容・資本金・従業員数を拾う
  2. 事業内容から業種を決める(日本標準産業分類という1,272件の分類から1つ選ぶ)
  3. 法人番号を調べて、登記上の住所を確かめる
  4. 中小企業か大企業かを判定する(業種ごとに基準が違う)
  5. 助成額と実質負担を計算して、備考の文章を書く
  6. 請求書システムに入力し、PDFを保存して、関係者に共有する

調べものが3つ、判断が1つ、計算が1つ、転記が1つ。1つずつはそれほど難しくないのに、6つ全部やらないと1通が完成しません。 しかも業種の選び方が隣の分類に1つずれるだけで、顧客に出す金額が変わります。

じつはこの作業、以前から自動化はしてありました。ただし動かすには専用のツールが必要で、見積書をいちばん多く作る営業メンバーの手元では動きません。便利なツールでも、現場が開けなければ自動化は1人分で止まります。 そこで、URLを開くだけで誰でも使える社内アプリに作り直しました。

できあがったのは、3画面のフォーム

①入力画面で人が入れるのは5項目だけです。公式サイトのURL、会社名(この2つはどちらか一方が必須)、受講人数、単価、助成金の対象人数。

見積書作成エージェントの①入力画面。公式サイトのURL・会社名・受講人数・単価・助成金対象人数の5項目だけが縦に並び、単価には400000が初期値で入っている。

ボタンを押すと、20秒ほどで②確認・修正画面が出てきます。調べた結果がすべて入った状態で、人はここに目を通して、違っていれば直します。

②確認・修正画面。会社名、法人番号の候補(「HP住所と一致」バッジ付きで1件が自動選択済み)、郵便番号・都道府県・住所、そして法人格・資本金・従業員数が、それぞれどこから取ってきた値かのバッジ付きで並んでいる。

最後に「見積書を作成」を押すと、③完了画面にPDFと請求書システムの下書きへのリンクが並びます。

③完了画面。「見積書を作成しました」の見出しに、請求書システム上はまだ下書きであることを示すバッジが付き、「株式会社パンハウス 御中 / 10名 / 4,000,000円(税込) / 中小企業」の要約行と、PDF・下書きへのリンクが並ぶ。

5項目を入れて、出てきた内容を確認して、ボタンを押す。 操作はこの3手だけになりました。

AIに任せているのは、2つだけ

「AIで自動化」と聞くと全部AIがやっている印象を受けますが、このアプリでAIが担当しているのは次の2つだけです。

  • 公式サイトの文章から、社名・住所・事業内容・資本金・従業員数を抜き出す
  • 事業内容から、1,272件の分類に当てはめて業種を選ぶ

残りは普通のプログラムの仕事です。ページを探してくるのも、法人番号を調べるのも、金額を計算するのも、文章を組み立てるのも、AIは触っていません。

この線引きには理由があります。最初はAIにURLを渡して「このページを読んで会社情報を教えて」と頼みました。ところがAIはページを読みにいかないまま、実在しない会社の情報を、社名も住所も資本金もそろえて返してきたのです(いわゆるハルシネーションです)。

そこで役割を入れ替えました。ページを取ってくるのはプログラム、AIは渡された文章から項目を抜くだけ。 指示文にも「この文章に書かれていることだけを根拠にして、書かれていないことは推測しないでください」と入れてあります。

業種判定も同じ考え方です。1,272件の分類名をすべてAIに見せて、その中から1つ選ばせ、選んだ理由も30字以内で書かせます。理由まで出させておくと、人は結果だけでなく「なぜそう判断したか」を見て納得できます。

②確認・修正画面の下半分。業種欄に「受託開発ソフトウェア業」が入り、「AI判定」バッジと「細分類コード:3911/中小企業判定の大分類:サービス業」「AIの判断理由:AIソリューションやプロダクトの開発が中心であるため。」が表示されている。

試しに弊社の公式サイトで動かすと、AIは事業内容を「生成AI研修、AIソリューション事業、AIプロダクト事業を展開する東大松尾研発スタートアップ。」と読み取り、業種を「受託開発ソフトウェア業」と判定しました。

金額の計算は、AIに触らせない

助成金の額は、中小企業か大企業かで変わります。弊社の研修(実訓練時間12時間)を単価400,000円(1名・税込)で受けていただく場合、1人あたりの助成額はこうなります。

1人あたり助成額 1人あたり実質負担
中小企業 312,000円 88,000円
大企業 206,000円 194,000円

実質負担は88,000円と194,000円で2倍以上ちがいます。 業種の選び方ひとつで金額が変わる、と最初に書いたのはこのことです。10名全員が助成対象なら、見積金額4,000,000円(税込)に対して助成総額3,120,000円、実質880,000円。この数字がそのまま見積書の備考に入ります。

・助成金で1人あたり312,000円助成されるため、実質費用1人あたり88,000円、10名で880,000円でご受講いただけます。

・弊社提携のパートナーに助成金の申請を依頼される場合、助成金申請の成果報酬費用(助成金総額3,120,000円の10%である312,000円(税抜))が別途発生致します。

この備考の文章を、AIは1文字も書いていません。文面はあらかじめ用意したテンプレートで、そこに計算した数字を入れているだけです。顧客に渡る文書に、毎回少しずつ違う文章が入ってしまうほうが困るからです。

※ここで使っている数値は、人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」のものです。コースや年度によって助成率も上限額も変わりますし、受給できるかどうかは要件を満たすかどうか次第で、最終的に判断するのは管轄の労働局です。企業規模の判定も、見積時点ではなく支給申請の時点で行われます。自社で試算される場合は、最新の支給要領を確認し、社会保険労務士か労働局にご相談ください。

人が確かめるのは、3か所だけ

AIを業務に組み込むとき、処理の途中に人の判断を挟むことを HITL(Human-in-the-Loop) と呼びます。ただし、挟めば挟むほど安全になる代わりに、自動化の意味は薄れていきます。だからどこに挟むかを決めることが、そのまま設計になります。

このアプリで人が入るのは3か所だけです。

  1. ②の画面で、調べてきた値を確認する — AIが入れた値はすべて「初期値」です。どこから取ってきた値かがバッジで分かるようにしてあり、公式サイトの原文と該当ページへのリンクも並べています
  2. 見積書が2通できたとき、どちらを送るか選ぶ — 資本金も従業員数も分からず中小企業か判定できないときは、推測で1通作らずに中小企業版・大企業版の2通を作ります。選ぶのは人です
  3. 顧客に送る — アプリが作るのは下書きまでで、送信ボタンは押しません

逆に言えば、それ以外の場所には人を挟んでいません。どのページを読むか、業種のコードをいくつに変換するか、助成額をいくらで計算するか——ここに確認画面を置いても、人は中身を見ずに「はい」を押すだけになります。確認を求める回数が増えるほど、人は確認しなくなる。 だから確認は、人にしか判断できないことと、間違えると社外に出てしまうことに絞りました。

3か所の共通点は、どれも「AIが調べてきたことが、顧客に渡る金額や文書に変わる直前」にあることです。やり直せる場所には人を置かず、やり直せない場所の手前にだけ置く。この基準で決めると迷いません。

画面もGASの中にある

「GASはスプレッドシートを自動化する道具」というイメージをお持ちの方は多いと思います。実際には、こうした画面つきのアプリも作れます。

Apps Scriptエディタのファイル一覧に、Code.gs・Config.gsなどの処理を書いたファイルと並んで index.html があり、エディタには画面のマークアップが表示されている。

左のファイル一覧を見てください。処理を書いたファイルに混ざって、画面のファイル(index.html)が同じ場所に並んでいます。画面の見た目を決めるファイルも同じです。

Apps Scriptエディタで styles.html を開いたところ。画面の配色がCSSの変数として定義されている。

ここに弊社のコーポレートカラーを書いておくだけで、社内ツールでも自社の見た目になります。サーバーを借りる必要も、専門的な開発環境を用意する必要もありません。配るのはURLだけで、社内のGoogleアカウントでログインしている人なら誰でも開けます。

むずかしいことはしていません

ここまで読んで「うちには無理そう」と感じた方がいるかもしれません。でも、やったことを並べると意外と地味です。

  • 一度に完成させていない。まず「URLを入れたら会社名が出る」だけを作って動かし、あとから業種判定、金額計算、見積書の作成と足していきました
  • コードは生成AIに書かせています。前回の記事に書いたとおりの作り方です
  • 完璧を目指していない。判定できないときは2通作る、外部サイトの読み取りに失敗したら手入力に切り替える——「決まらないときは人に渡す」と決めておくと、精度100%を目指さなくても実用になります

いちばん時間がかかったのは、コードを書くことではなく、自分たちの業務を6つのステップに分解することでした。そしてそれは、毎日その仕事をしている人がいちばん上手にできます。

まとめ——調べて、確かめて、計算する

このアプリの役割分担は、結局のところ次の3つに整理できます。

  • AIがやること:文章から必要な項目を抜き出す。選択肢の中から1つ選ぶ
  • プログラムがやること:探す、照合する、計算する、文章を組み立てる、記録する
  • 人がやること:出てきた値を確かめる。2通できたらどちらを送るか選ぶ。そして送信ボタンを押す

生成AIを業務に組み込むとき、いちばん難しいのは「どこまで任せるか」です。全部任せると、実在しない会社の情報が見積書に載ります。何も任せなければ、今までどおりの手作業が続きます。その線をどこに引くかは、その業務を知っている人にしか決められません。

まずは、自分が毎月くり返している作業を6つくらいに分解してみてください。そのうち「転記」に当たる部分は、たいてい仕組みに置き換えられます。その1つから、小さく試してみてください。

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