
AIエージェントの製品説明、ベンダーの提案資料、国のAI事業者ガイドライン。こうした資料を読んでいると、「HITL」という言葉がよく出てきます。「HITLを前提に設計しています」「HITLが重要です」と言われて、なんとなくうなずいたことはないでしょうか。
HITLは、ひとことで言うとAIの作業の途中に、人間がチェックするポイントを置くことです。この記事では、似た言葉のHOTLとの違いと、「自分の業務のどこに人のチェックを置けばいいか」の決め方を、弊社で実際に使っている社内アプリを例に説明します。
HITLは Human in the Loop の略で、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」と読みます。Loopは処理の流れのこと。人間(Human)が、その流れの中(in)にいる、という意味です。
身近な例でいえば、新人が書いたメールを、上司が目を通してから送る流れです。この新人をAIに置き換えると、HITLになります。
AIが下書きする → 人が確認・修正・承認する → 実行する
ポイントは、人が承認しないと次に進まないことです。AIエージェントに作業を頼むと、ファイルの削除やメールの送信の前に「この操作を許可しますか?」と聞いてくることがあります。あれもHITLです。
誤解されやすいのですが、HITLは「AIが信用できないから、人が全部見張る」という後ろ向きの話ではありません。人が止められる場所があるから、その手前までは安心してAIに任せられます。HITLは、AIに任せる範囲を広げるための仕組みです。
HITLとセットでよく出てくるのが、HOTL(Human on the Loop、ヒューマン・オン・ザ・ループ)です。inとonの1文字違いですが、人の関わり方が違います。
| HITL(Human in the Loop) | HOTL(Human on the Loop) | |
|---|---|---|
| 人の位置 | 流れの中 | 流れの上 |
| 進み方 | 人が承認してから、AIの結果が使われる | AIが先に実行し、人は見張っていて、おかしければ止める・直す |
| たとえ | マニュアル車の運転 | 高速道路の自動運転支援(ハンドルに手を添えて見張る) |
| 向いている業務 | 間違いが社外に出る、または取り返しがつかないもの | 後から直せるが、放っておくと困る人が出るもの |
| 弱点 | 人が確認するまで先に進まない | 間違いが、一度は流れてしまう |
見分け方は1つです。人の承認を待ってから実行するならHITL、先に実行してから人が見るならHOTLです。
HITLの例は、弊社の見積書アプリです。会社のURLと人数を入れると、助成金の試算まで入った見積書を作ってくれる社内アプリで、人が内容を確認して送信しない限り、見積書は顧客に届きません(詳しくは見積書づくりを丸ごと自動化——GASと生成AIで作った社内業務アプリの事例)。
HOTLの例として、問い合わせメールの自動振り分けを考えてみます。顧客からの問い合わせをAIが読んで、営業・サポート・経理などの担当部署に振り分けます。振り分けは人の承認を待たずに進みます。そのかわり、窓口の担当者が1日に何度か振り分けの一覧を見て、間違っていれば振り分け直します。
HOTLで大事なのは、「間違えても誰かが気づくだろう」で済ませないことです。別の部署に届いた問い合わせは「うちの担当じゃない」と放置されやすく、誰も気づかないまま顧客を待たせてしまいます。誰が見張るのか、どうやって直すのかを決めておく。そこまでしてはじめて、HOTLと呼べます。
参考:HOOTL(Human out of the Loop)
人がまったく関わらない、完全自動の形をHOOTL(ヒューマン・アウト・オブ・ザ・ループ)と呼ぶこともあります。自分の受信箱の自動振り分けやスパムフィルタがその例です。間違えても使う本人がすぐ気づいて直せる業務なら、これで十分な場合もあります。この記事では、人の関わり方を設計するHITLとHOTLに絞って説明します。
これまでのAIは文章を提案するだけで、それを使うかどうかは人が決めていました。今はAIエージェントが、メールを送る、ファイルを消す、システムに入力するといった操作まで自分で行います。提案なら人が読んだ時点で止められますが、実行されてしまうと止められません。どこで人が止めるかを、あらかじめ決めておく必要が出てきました。
AIは、事実と違うことを自信ありげに答えることがあります(ハルシネーション)。精度は上がり続けていますが、ゼロにはなりません。
総務省と経済産業省が2026年3月に公表した「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AIエージェントが外部に影響を与える操作をする前に、人が確認・承認する仕組みを設けることを求めています。EUのAI法も、リスクの高いAIについて、そのリスクや使われ方に見合った人間による監視を求めています。
では、自分の業務はHITLとHOTLのどちらにすればいいのか。次の2つの問いに、順番に答えてみてください。
問1 間違いがそのまま社外に出る、または取り返しがつかない?
- はい → HITL:出る前に人が承認する(例:見積書の送信)
- いいえ → 問2へ
問2 間違いを放っておくと、誰も気づかないおそれがある?
- はい → HOTL:見張り役と、直す手段を決める(例:問い合わせメールの自動振り分け)
- いいえ → 人の関所はいらない:使う本人がすぐ気づいて直せる(例:自分の受信箱の振り分け)
問1は、「間違いが誰に届くか」と「取り返しがつくか」をまとめた問いです。この2つは、人の関わり方を決めるときによく使われる判断軸です。ただ、社外に届いたものは、たいてい取り返しがつきません。顧客に送った見積書は、訂正はできても、送らなかったことにはできません。そこで1つの問いにまとめました。
問2は、その間違いに誰かが気づけるかを確かめる問いです。自分の受信箱の振り分けを間違えても、自分ですぐ気づきます。一方、別の部署に振り分けた問い合わせは、誰も気づかないかもしれません。気づく人がいないなら、見張る役を決めてHOTLにします。
あわせて、2つのことを覚えておいてください。
ここからは、弊社の見積書アプリを例に、HITLを実際にどう設計したかを見ていきます。
このアプリは、見積書1通のために毎回やっていた6つの作業を、ほぼ自動にしたものです。ただし、6つすべてに人のチェックを入れているわけではありません。
| 工程 | 誰が処理するか | 間違えたら | 人のチェック |
|---|---|---|---|
| ① 公式サイトから社名・住所・資本金などを拾う | ページを取ってくるのはプログラム、項目を抜き出すのはAI | 金額や宛名に響く | 確認画面で確認する |
| ② 業種を1,272の分類から選ぶ | AI(選んだ理由も出させる) | 1人あたりの実質負担が88,000円か194,000円かが変わる | 確認画面で確認する |
| ③ 法人番号と登記上の住所を照合する | プログラム | 宛名に響く | 確認画面にバッジで表示する |
| ④ 中小企業か大企業かを判定する | プログラム | 金額に響く | 判定できないときだけ人が選ぶ |
| ⑤ 助成額を計算し、備考の文章を組み立てる | プログラムとテンプレート | — | 置かない |
| ⑥ 請求書システムへの入力・PDF作成・送付 | プログラムは下書きまで | 社外に届き、取り消せない | 人が送信する |
人が入るのは、確認画面での確認、見積書が2通できたときの選択、そして送信の3か所だけです。
HITLは、全部の工程を人が見ることではありません。間違いが社外に出る直前に、人が承認しないと先に進めない関所を置くことです。見積書アプリでは、AIが調べた内容が、顧客に渡る金額や文書に変わる直前に関所を置きました。
⑤の計算に人を置いていないのは、AIを使っておらず、入力が同じなら毎回同じ結果になる処理だからです。ここに確認画面を置いても、人は中身を見ずに「はい」を押すだけになります。

開発の途中で、AIにURLを渡して「このページを読んで会社情報を教えて」と頼んだことがあります。するとAIはページを読みにいかないまま、実在しない会社の情報を、社名から資本金までそろえて返してきました。
そこで、ページを取ってくるのはプログラムの仕事にして、AIは渡された文章から項目を抜き出すだけにしました。AIの担当を狭めると、間違いが起きる場所も限られ、人が確認する負担も軽くなります。どこに人を置くかを考える前に、AIに何をさせるかを絞る。これもHITL設計の一部です。
この事例から持ち帰る判断基準
やり直せない場所の手前にだけ、人を置く。迷ったら、AIに決めさせず人に渡す。
※金額は人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」で、弊社研修(実訓練時間12時間・単価400,000円)を受講する場合の試算です。助成率や上限額はコースや年度によって変わり、受給できるかどうかは管轄の労働局の判断によります。
よくある業務を、2つの問いに当てはめるとこうなります。
| 業務 | 問1 社外に出る/取り返しがつかない | 問2 誰も気づかないおそれ | 人の関わり方 |
|---|---|---|---|
| 顧客へのメール・見積書・提案書 | はい | — | HITL:送信前に承認 |
| AIエージェントによる削除・送金・外部送信 | はい | — | HITL:実行直前に承認 |
| 問い合わせメールの自動振り分け | いいえ | はい | HOTL:窓口担当が一覧を見張る |
| ナレッジの自動収集(社内でしか使わず、使う人が出典を確かめる) | いいえ | いいえ | 関所なし(HOOTL) |
| 自分用の下書き・メモ | いいえ | いいえ | 関所なし:本人がその場で確認 |
| 自分の受信箱の自動振り分け | いいえ | いいえ | 関所なし(HOOTL) |
まずは、いまAIを使っている業務を1つ選んで、2つの問いに答えてみてください。問1が「はい」なのに人の承認が入っていなければ、そこに確認を1つ入れる。それがHITLの最初の一歩です。
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